WB金融経済研究所 <活動報告004> PDF版(79KB)
平成24年12月20日
1. | 12月16日の選挙結果の評価はともかくとして、安倍首相が返り咲き、彼がブレイン・トラストの助言に耳を傾けてデフレ脱却策を打ち出し、市場が反応していることは日本にとって久々の朗報である。 筆者の知人、N.Y.在の著名なエコノミストは「Japan is definitely back in the limelight.」とやや前のめりのメールさえ送ってきてくれた。 |
2. | 「日銀による国債の引受け」と「日銀による国債の買いオペ」の違いは、おカネの流れとして買いオペの場合には代金が国債を売った金融機関の日銀当座預金口座に入り(「ベース・マネー」は増加。)、そこで塩漬けになる(日銀はこの預金に0.1%の金利を付けているので余計に)可能性があるのに対して、日銀引受の場合には代金が政府の当座預金口座に入金され、そのお金は予算に従って確実に市中に流れ出していく(「マネー・サプライ」が増加。)ということにある。 |
3. | 「国債の日銀引受け」はインフレ、それも気違いじみたハイパー・インフレを招くから禁じ手のはずだというが、それは戦争中にそういうことが起った記憶に基づく議論である。今度は財政上の必要からではなく、金融政策として出てきたという点で戦争中とは本当は異るのである。 しかし、今度の安倍発言は、インフレの記憶を呼び覚まし、窮余の一策として見事な効果を生んでいるわけである。 記憶が経済で大きな役割を果たすことは、今日の米ドルの例に明らかである。一時国際経済の中における米ドルの地位を「帝王循環」と呼んだ評論家がいたが、これは米ドルに現在そんな力がないのに、力のあった時代の記憶によって同じ地位を享受しているに過ぎないことを指摘したものであった。帝王の力が実体はないのにかなり長い間記憶の効果として継続することと類似していると言ったのである。 |
4. | 今回提案されている「国債の日銀引受け」は、決して中央銀行による「財政支援」ではないことに、日銀も留意すべきである。日銀が手段を尽しても通貨の価値を適正に操作できなかったために、言わば通貨価値の安定を使命とする日銀への助太刀として提案されたと理解すべきである。 |
5. | 政府と日銀とが「政策協定」を結ぶというが、10月30日の「共同文書」と同じ内容なら、安倍路線とは大きく矛盾することになる。すなわち、あの文書では「デフレは実体経済が悪いことの方に真の原因あり」との日銀の立場に政府が同意させられた形になっている。今度こそこの日銀の立場を否定したものにしなければならない。 したがって、そもそも「政策協定」を結ぶことなど考える必要はなく、「協定」を結ぼうとしても、今の日銀とは合意などできるはずはないのである。 |
6. | デフレ脱却は金融政策だけでケインズ流の「期待」に働きかけることだが、経済政策としてはこれに財政支出が加わることはともかく、構造政策を同時に進めることを忘れてはならない。 今度のヨーロッパ各国での政策展開をみていると、財政政策だけで対応したスペインなどの失敗を繰り返さないためには、是非この点に注意を払う必要があると考える。 |
(了)